高校生・大学生におけるタイパの良いSNSを活用したアルバイト探し
~”闇バイト”の危険性とその対策~
目次
はじめに
情報化社会において、重要な情報収集源であるSNSは、検索性の高さから学生のアルバイト探しに使われることもある。しかし、SNSやインターネット上の掲示板で簡単に高額報酬を得られるなどとうたい、求職者自身も知らないうちに危険な仕事、いわゆる「闇バイト」に加担してしまう事件がメディアでも多く報道され、社会的な問題になっている。
そこで今回は、SNSネイティブである高校生・大学生(大学院生含む)のSNSを活用したアルバイト探しの実態から、違法性のある労働に巻き込まれないために必要な意識・行動について考察する。
SNSでアルバイト探しをしたことがある高校生は50%、メリットはタイパの良さ
SNSでアルバイト探しをしたことがある割合は高校生が50.0%、大学生が30.8%だった。実際に応募した経験があるのは高校生が36.1%、大学生が21.8%で、働いた経験がある割合は高校生が32.6%、大学生が19.1%となった。アルバイト探し・応募・就労のいずれにおいても高校生の方が多く、SNSネイティブである高校生においてSNSでのアルバイト探しは身近なものである様子がうかがえる。【図1】
また、SNSでアルバイトを探すメリットを聞いたところ、「すぐに求人に応募できる(44.2%)」がもっとも多く、次いで「すぐに働くことができる(39.5%)」、「面倒な登録手続きがない(35.0%)」となり、Z世代を象徴する価値観の一つである「タイムパフォーマンス(タイパ)」(※1)を意識する行動がSNSでのアルバイト探しにおいてもみられた。【図2】
※1:時間効率を重視すること。かけた時間に対するパフォーマンスのよさをいう。
SNSでのアルバイト探しは、応募の手軽さや働き始めるまでの期間が短いことなど効率性の観点においては、学業や部活動で忙しい学生にとってメリットがあると考えられる。一方で、SNSは第三者のチェックが入らず誰でも簡単に情報を掲示できることから、トラブルに巻き込まれる危険性もあるため、応募する前や働き始める前に企業や仕事の情報についてしっかりと確認することが重要である。
SNSでのアルバイト探し、危険性を認知している高校生は半数以下
SNSでのアルバイト探しは“タイパの良さ”などの利点がある一方で、ハローワークや職業紹介会社など第三者のチェックがないことから違法な労働に巻き込まれる危険性もあるが、SNSでのアルバイト探しの危険性を認知している割合は高校生(44.8%)/大学生(52.3%)と約半数にとどまる結果となった。また、SNSで怪しい求人を見かけたことがある割合は高校生(44.5%)/大学生(48.0%)となり、実際にトラブルにあった割合は高校生(7.4%)/大学生(5.8%)とトラブルにあった学生が一定数いることがわかった。【図3】
また、SNSでは高額報酬などの甘い言葉で違法な労働を募集しているケースもある。学生がアルバイト探しの際に応募意欲が高まるワードとしてもっとも多いのは、「高収入(66.2%)」、次いで「簡単バイト(66.1%)」となり、高額報酬や簡単に稼げるという言葉に惹かれる学生は約7割となった。【図4】
“闇バイト”求人においても、応募意欲の高まるワードが利用され、惹かれてしまう学生も多いことがわかった。学生がSNSの利用やアルバイト探しについての正しい知識を身に付けるためには、教育現場での発信や、親など周囲の大人も子供のアルバイトに関心を持ち注意していく必要があると考えられる。
アルバイト探しを大人に相談しない学生は約半数。一方でSNSでのアルバイト探しに不安を抱えている学生も
そこで、ここからは学生のアルバイト探しにおける親や周囲の大人の関わりについてみていく。アルバイト探しの際に周囲の大人に相談している学生は48.8%となり、相談をしない学生が約半数以上いることがわかった。【図5】
一方で、SNSでアルバイトを探す際に学生がどのような不安を感じるかを聞いたところ、「バイト用のサイトに登録されていないので、相手の企業を絶対的に信頼できないこと」「しっかりした企業なのか見極めるのが難しい」といった情報の信頼性や「個人情報が漏れないか」といった個人情報の流出の観点、「危険なアルバイトを行っていないか」「闇バイトなどではないか」といった社会問題になっている闇バイトに関する内容などが多くみられた。【図6】
SNSでアルバイト探しをする際の学生の不安は多岐にわたるが、親や周囲の大人にアルバイトの相談をする学生は少ないため、大人から積極的にコミュニケーションを取ることが重要だと考えられる。
子供のアルバイト先に関心のある親が多い一方で、アルバイト先を把握している割合は半数以下
一方で、高校生・大学生の子供を持つ親で子供からアルバイトについての相談を受けたことがある割合は35.6%にとどまり、子供のアルバイト先での悩みを把握している割合においても31.9%にとどまった。【図7】
また、子供のアルバイト先に関心がある割合は62.3%となり【図8】、関心がある親が多い一方で、子供のアルバイトについて把握していることを聞いたところ、「企業名(49.8%)」がもっとも多く、次いで「仕事内容(49.4%)」、「企業情報(42.0%)」となり、上位にあがった企業名や仕事内容といった基本的な情報についても把握している割合は半数以下となった。加えて、もっとも少なかった「アルバイト先で働く人(27.5%)」においては、7割以上の親が把握できていないことがわかった。【図9】
社会経験が少なく判断力が十分でない学生が知らぬうちに違法な行為に巻き込まれないように、親が多くを把握する必要があるだろう。「子供が今どのようなアルバイトをしているのか」といった基本情報を把握する必要があるのはもちろん、子供自身の人間関係は人格形成に大きく影響し、それは子供が働く職場の雰囲気やカルチャーなどを把握する手がかりとなるという視点から、「アルバイト先で働いている人」について把握することも重要だと考える。
まとめ
2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられたことで学生が一人で契約できることが増えており、親が子供を守ることができる場面は少なくなっている。社会経験が少ない学生が違法な行為に巻き込まれないように、親は子供のアルバイト先を把握することや、アルバイト探しの方法についてアドバイスをしていくことが重要だと考えられる。子供の自由は尊重しつつも、親や周囲の大人が遠慮せず積極的にコミュニケーションを取っていくことが子供を違法な労働から守ることにつながるのではないだろうか。また、教育機関などがSNSの正しい活用方法について改めて学ぶ場を設けることで、学生が自分の身を守る術を身に付けることにもつながっていくと考えられる。
キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実